2021 年 14 巻 p. 39-64
本論は、中国年金制度の所得再分配効果に注目し、所得階層別に見た職工年金と住民年金のそれぞれの生涯移転所得額及び年金所得代替率を推計した。そして、現行年金制度の所得再分配効果の実態を明らかにした上で、当該制度の問題点を指摘し、それを解決するための改革の方向を提案した。 本論の主な結論は、以下のとおりである。職工年金の保険料率は低所得階層にとって高すぎるので、低所得階層が職工年金に加入する可能性は低い。職工年金によって高所得階層から低所得階層への所得再分配が行われているものの、高所得者間の所得再分配になってしまい、最も貧困リスクが高い低所得者には恩恵が及ばない。職工年金に加入できない低所得者は、住民年金に頼るしかない。しかし、住民年金の場合は、低い拠出ランクを選択すれば、保障水準が非常に低いので、貧困防止機能を果たしていない。住民年金加入者全員が住民年金制度以外から移転所得を受けていることになるが、拠出インセンティブが重視され、多く拠出する人ほど多く移転所得を受けられることになるので、拠出ランクや拠出年数と当該個人の経済力との間に相関があるならば、より多くの恩恵が経済力のある個人に及び、最も貧困リスクが高い個人に最も少ない支援しか与えないことになっている。 そこで、全国民を対象とした統一的な最低保障年金の必要性を示唆した。