年金研究
Online ISSN : 2189-969X
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日本における老後のための資産形成に向けた基礎的条件
インフォームド・ディシジョンの基盤としての年金ダッシュボード
─ Decumulation およびWPPモデルの可視化 ─
谷内 陽一
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2022 年 17 巻 p. 137-173

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抄録

英国では、年金ダッシュボード(pensions dashboard)という自身の公的年金および私的年金の状況を一元的に把握できるオンライン・プラットフォームの開発に官民挙げて取り組んでいる。英国では、Automatic EnrolmentおよびPension Freedomという私的年金に関する2つの大きな改正が行われた結果、老後のための資金準備および生活設計における個人の意思決定の重要性が高まっている。年金ダッシュボードは、年金および老後生活への意識と理解を高め、老後資金準備のための資産形成・運用ならびに引退後の生活設計(リタイアメント・プランニング)における個人の意思決定を支援することを目的としている。

 年金ダッシュボードがもたらす利便性は万人が認めるところだが、その実現のためには、カバレッジ(適用する年金制度の範囲)、データ規格、セキュリティ・個人情報保護、開発主体・ガバナンス、開発・運営コストの負担などの課題を乗り越える必要がある。また、年金ダッシュボードによる老後所得の「見える化」を推進するためには、年金だけでなくあらゆる老後の収入・支出をカバーすること、拡張性・任意性の確保、老後資金準備を促すための機能の搭載、DXDigital Transformation)あるいはICT Information and Communication Technology)への対応、既存の年金情報提供ツールとの連携等に配慮した施策が求められる。

 併せて、現在開発中の年金ダッシュボード・アプリケーションを用いて、老後生活設計で現在注目されている①資産の取崩し(デキュムレーション)および②WPPモデルという2つの手法の効果について可視化を試みた。特にWPPモデルでは、公的年金を増額するために手元資金をあえて取り崩すという合理的判断が求められるが、その有効性が可視化されることで今後更なる普及・活用が期待される。

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© 谷内陽一
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