年金研究
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新型コロナウイルス感染症の年金・ウェルビーイングへ の影響
「年金加入履歴に基づく新型コロナウイルス 感染症の影響調査」の概要
稲垣 誠一
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2023 年 21 巻 p. 1-68

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抄録

 本稿では、ねんきんネットを利用したインターネット調査「年金加入履歴に基づく新型コロナウイルス感染症の影響調査」を実施し、新型コロナウイルス感染症の国民生活への影響、老後の年金給付への影響について分析を行った。この調査では、ねんきんネットから年金記録を転記してもらうことにより、20184月から202112月までの月別の賃金や賞与などのデータ、ねんきんネットの年金額試算の機能を利用した年金見込額のほか、生活満足感や幸福感などウェルビーイングに関連する5項目を調査した。

 老後の年金については、新型コロナウイルス感染症の経済社会への影響が2年間だけにとどまればその影響は軽微であるが、長期にわたって影響が残るようであれば、無視できないことが明らかになった。また、性別にみると、男女の雇用・賃金格差は依然として大きく、厚生年金保険の被保険者の年金試算額を比べてみても、平均年金見込額に20%くらいの差があることがわかった。ウェルビーイングについては、調査をした5項目について主成分分析を行って一つの変数に要約し、その偏差値(ウェルビーイングスコア)を算定することによって、この2 年間の低下を分析した。国民年金の加入種別別のウェルビーイングスコアは、新型コロナ感染症流行前の2019年では、第3号被保険者(主に専業主婦)が最も高い55.1、次いで第2号被保険者(主に正規雇用)51.2、第1号被保険者(うち就業者、主に非正規雇用)48.4、第1号被保険者(うち非就業者)47.2であり、顕著な差が見られた。また、この2年間では、第2号被保険者よりも第1 号被保険者の低下が大きく、正規雇用と非正規雇用のウェルビーイングの差が拡大したと考えられる。また、子育て中のものは、子供がいないものに比べてウェルビーイングスコアが高いものの、この2年間の低下は大きく、新型コロナウイルス感染症の子育て世帯への影響は大きかったと考えられる。

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© 稲垣誠一
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