年報政治学
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《特集》
「制約なき完全な主権」 を求めて
―統一ドイツNATO帰属問題とゲンシャー外交
板橋 拓己
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2019 年 70 巻 1 号 p. 1_159-1_180

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抄録

1989 / 90年のドイツ統一プロセスのなかで、ドイツは自らに課されていた 「戦勝四か国の権利と責任」 を解消し、「制約なき完全な主権」 を獲得することを目指した。そしてその際に越えるべき最も高いハードルは、統一ドイツのNATO帰属をソ連に承認させることであった。本稿は、1990年5月から7月にかけて、いかにして西ドイツがソ連から統一ドイツNATO帰属への合意を取り付け、「完全な主権」 を獲得したかを検証する。その際、近年公刊された西独外務省史料を中心的な史料としつつ、従来の研究では等閑視されがちだったゲンシャー外相の寄与にとりわけ注目する。

 ゲンシャー外交の貢献は次の3点に纏められる。第一に、CSCEヘルシンキ最終文書の規定を強調し、ドイツの同盟選択権をソ連に認めさせることに貢献した。第二に、1990年6月の 「ターンベリーのメッセージ」 などを通じて、NATOの性格の変容をソ連にアピールした。そして第三に、ソ連、とりわけシェワルナゼ外相との会談を幾度も重ね、信頼の構築に努めた。こうしたゲンシャー外交がなければ、90年7月の独ソ首脳会談における統一ドイツのNATO帰属合意もなかったであろう。

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