年報政治学
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《特集》
主権と資本
―グローバル市場で国家はどこまで自律性を維持出来るのか
鈴木 一人
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2019 年 70 巻 1 号 p. 1_56-1_75

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抄録

主権国家システムと資本主義システムは近代のシステムの両輪として発達した。しかし、ニクソンショックによって変動相場制へと移行したことで自由な資本移動が可能となり、それが主権国家の自律的な経済財政政策を困難にさせるようになってきた。開放経済の下では資本移動の自由と安定した為替と自律的な金融政策の三つが同時に成立しないトリレンマが起こるが、ニクソンショックを契機に加速するグローバルな資本移動が所与のものとなり、不安定な為替に耐えられない多くの国は実質的な自律性を失っていく。また深刻な債務危機に陥った国家はIMFによるコンディショナリティによっても自律性を失っていく。自律性を失いながらも法的な主権を維持し続ける国家は、自らの自律性を回復させる運動として、他国に対する排他的な政策、すなわち保護主義的ないしポピュリスト的な政策を取るようになる。しかし、そうした排他的な政策もそれを実行する能力の有無によって不平等な状況が生まれ、法的な平等性は維持されながらも実質的な自律的統治能力の不平等性が生まれる状況になっている。

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© 2019 日本政治学会
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