2020 年 71 巻 1 号 p. 1_34-1_57
本研究は、戦後に主要7調査機関が実施した憲法に関する世論調査の結果を包括的に分析することで、戦後日本人の憲法意識の変遷を追うことを目的とする。動的線形モデルを応用した世論調査集積法を用いることによって、質問内容やワーディングの違い、調査機関・調査方法ごとの傾向、標本誤差を考慮した上で、憲法改正に対する潜在的な賛成・反対率を推定できる。推定結果からは、有権者の認識において1950年代には憲法改正が全面改憲を意味したのに対して、1960~80年代にかけて争点が9条改正に収斂していったこと、1990~2000年代には9条以外の論点が明確に意識されるようになったこと、小泉政権後は焦点が再び9条問題に絞られつつあることが読み取れる。さらに、質問内容やワーディングに関する分析結果からは、一般的に9条の改正が2項の改正として有権者に認識されていることや、戦争を連想させることが9条改正の反対率を高めることなどが示唆される。