年報政治学
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《特集》
トルコの選挙制度における阻止条項の機能低下
―人民民主党をめぐる戦略と選挙連合
岩坂 将充
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2021 年 72 巻 1 号 p. 1_62-1_80

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抄録

本稿では、比例代表制を採用するトルコの選挙制度の特徴の1つであり、これまで政党政治に多大な影響を与えてきた全国得票率10%という高い閾値を持つ阻止条項が、近年その機能―小党乱立と国内少数民族であるクルド人に基盤を持つ政党 (クルド系政党) の議会進出の阻止―を低下させている点に注目し、その要因を明らかにすることを目的とする。本稿で指摘する要因は、クルド系政党やそれをめぐる有権者の戦略、そして2018年議会選挙から導入された選挙連合制度である。とりわけ人民民主党 (HDP) は、2015年6月議会選挙に際し、従来のクルド系政党とは異なりトルコのさまざまなマイノリティの権利擁護へと方針転換をしたことで支持の拡大に成功、さらには閾値を超え議席を獲得することで、長く政権を維持している公正発展党 (AKP) の勢力拡大を抑制できることを示した。選挙連合制度の導入とHDPの連合不参加の決断はこうした状況を加速させ、2018年議会選挙では明確なかたちで有権者の戦略投票、すなわちAKP抑制のためにHDPの閾値超えを意図した 「均衡のための閾値保険」 ともいえる投票をもたらした。本稿の事例は、とりわけ閾値とそれに影響を受ける政党獲得議席に焦点をあてた戦略投票が、選挙連合制度とともに阻止条項の機能低下を導いたとことを示すものである。

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