年報政治学
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《公募論文》
日本占領末期における治安機構統合問題
―1951–1952年
藤田 吾郎
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2022 年 73 巻 2 号 p. 2_190-2_211

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抄録

 本稿は、総司令部民政局文書や近年公開された関係者の日記などの一次史料を活用し、保守勢力内部の諸アクターの構想およびその相互作用に着目して、日本占領末期(1951‒1952年)における治安機構の統合問題を分析するものである。日本の独立回復が迫り、かつ治安情勢が緊迫化する中、吉田茂首相は、国家地方警察、自治体警察、法務府特別審査局、警察予備隊、海上保安庁といった諸治安機構を統合して単一の治安官庁である治安省を創設することで、日本政府の治安責任を強化することを試みた。しかし、大橋武夫を中心とする吉田側近が、警察国家の復活を懸念する観点から治安省の創設に強硬に抵抗したことで、この試みは挫折した。さらに、吉田はその後、国家地方警察の一部と法務府特別審査局の統合という限定的な機構統合を模索したが、機構の所管問題をめぐる論争が政府内で生じたことで、この動きも頓挫した。その結果、占領末期における治安機構の再編は限定的なものに留まり、治安機構の一括統合を通じた中央集権的な治安体制の再建は未完に終わった。本稿の議論は、戦後日本において「逆コース」が徹底されなかった経緯を説明する上で、保守勢力が果たした役割の重要性を示すものである。

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