抄録
造礁サンゴの破損した枝の回復過程を明らかにするため,沖縄本島水釜の裾礁礁縁において優占する枝状のミドリイシ4種,オヤユビミドリイシ(Acropora gemmifera),コユビミドリイシ(A. digitifera),ハイマツミドリイシ(A. millepora),クシハダミドリイシ(A. hyacinthus)について調査を行った.破損し骨格が露出した傷口は,全般的に最初に透明なサンゴ組織が被覆した後,徐々に組織の着色が進む一方でポリプの形成が行われた.しかし回復の進行過程は群体問で差異がみられた.枝が細いために破損部の傷口面積が小さいクシハダミドリイシは,枝が最も太く傷口面積の大きいオヤユビミドリイシと比較して,明らかにポリプ形成が速かった.さらに,オヤユビミドリイシのいくつかの破損枝では傷口の中央部にマウンド状の突起がみられ,そのような被損枝では頂端ポリプの形成が明らかに遅れることが観察された.このマウンド状突起は,破損部においてサンゴ組織が傷口を塞ぐ前に沈積した堆積物を,組織・骨格で覆うことにより形成されており,そのため頂端ポリプの形成が阻害されたものと考えられる.本研究から,被損したミドリイシの枝は,環境要因の影響のみならず形態・枝の太さといった種特有の条件によって,ポリプ形成および回復過程の特徴に種による変化が生じることが示唆される.