抄録
ヤドリユスリカの幼虫は,ヒラタカゲロウ科の幼虫の前翅芽と後翅芽の間に付着し,体表から口器で体液を吸って成長する.蛹も宿主の体表に付着する.本研究では,本種の寄生状況や生活史を明らかにするために,滋賀県高時川において,1998年3月より1999年12月の約2年間にわたって月ごとの野外調査を実施した.また,本種の寄生が宿主であるカゲロウ類の幼虫にどのような影響を及ぼすかについても,室内飼育によって検討した.
調査期間を通して,925個体のキブネタニガワカゲロウを得たが,そのうち59個体(6.4 %)にヤドリユスリカの幼虫または蛹が寄生していた.他に,ヒメヒラタカゲロウの幼虫からもわずかながら本種の寄生が認められた(398個体の内2個体)いずれも宿主l個体にはl頭のヤドリユスリカしか寄生していなかった.寄生率は初夏から秋にかけてやや高くなる傾向があった.1999年は1998年より全体に寄生率が低い傾向があったが,これは1998年秋から1999年にかけての降水量の増大(河川の出水頻度)と関係があるかも知れない.ヤドリユスリカの成虫の出現期間は4月から9月と推定された.
キブネタニガワカゲロウに寄生する場合,ヤドリユスリカは体の大きい幼虫に寄生している割合が高い傾向があった.大きな宿主に寄生しているほど,大きなヤドリユスリカが羽化する傾向があった.ヤドリユスリカに寄生されていたキブネタニガワカゲロウの幼虫は,そうでない幼虫に比べ,翅芽が短くなっていた.また,寄生の有無によって,飼育下での幼虫の成長や生存に差が見られ,寄生によって幼虫の脱皮回数が激減し,生存日数が低下することがわかった.このように,ヤドリユスリカの寄生は宿主に対して大きな影響を与える一方,寄生者であるヤドリユスリカの成長や生存も,宿主の質や大きさにより制限を受けていると考えられた.