自然環境科学研究
Online ISSN : 1883-1982
Print ISSN : 0916-7595
アジア産トリカブト属 (キンポウゲ科) の分類学的研究 IX
Aconitum polycarpum Chang ex W. T. WangとA. heterophyllum Wall. ex Royleの関係
門田 裕一
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2002 年 15 巻 p. 1-7

詳細
抄録
Aconitum polycarpumは, 中国科学院植物研究所(PE,北京)に収蔵されている中国雲南省碧羅雪山から得られた標本にもとづいて,C. C. Changによって命名された種である.しかし,この名前は裸名であり,W. T. Wang(王文采)によって正式に発表された(Fig. 1).この種は,3浅裂する茎葉,緑色を帯びた花の色,嘴の短い船形の上萼片,縁が著しい波状縁となる側萼片をもつという,トリカブト亜属のほかの種には見られない特異な形態的形質を有している.また,分布の点でもこれまでに雲南省碧羅雪山以外では知られていない.ここではアジアに分布するトリカブト属の分類学的研究の一環として,形態的形質からみたA. polycarpumの類縁関係を探ってみた.
 A. polycarpumの花弁は王文采によって,「花弁の舷部は小さく,(蜜の)分泌組織は舷部の前縁に沿って存在し, 距はなく,唇部は不明瞭である」と記載された.その花弁は中国植物誌第27巻に図示されている(Fig. 2).この図はやや不鮮明で,花弁の細かい構造はよく分からない.しかも,記載にある,「分泌組織は存在」して,「距は存在しない」ということは,分泌組織=距であるので,矛盾した表現である.そこで,実際に標本を用いて花弁の構造を改めて観察してみた.その結果,花弁の舷部は斧形で,距は嚢状でよく発達し,小型ながら先端が浅く2裂する唇部が明瞭に認められた(Fig. 5a).ここでは,この新しい知見にもとづいて,A. polycarpumの再記載を行った.
 C. C. Changはタイプ標本に添付された注釈ラベルにおいて,A. gymnandrum Maximに近縁としたが(Fig. 1),王文采は単型節Sect. Sinaconitum W. T. Wangを新しく記載し,A. polycarpumを, A. gymnandrumとは関係のない, この新節の独立種と認識した.筆者もA. polycarpumA. gymnandrumとは無関係であることについては,王文采の見解を支持する.しかし,花の色,上萼片や花弁の形態的特徴からはA. heterophyllumA. polycarpumによく似ており(Figs. 3,4,5b),A. heterophyllumもSect. Sinaconitumに含めるのが妥当であると考える.すなわち,Sect. SinaconitumA. polycarpumA. heterophyllumの2種から成ると考えるのが妥当である.
 Sect. Sinaconitumの2種の分布図をFig. 6に示した.A. polycarpumは大ヒマラヤ地域の東部(中国ヒマラヤ)に分布し,A. heterophyllumは西部に隔離的に分布していることが分かる.両者の分布域は直線距離で1,500 km以上も離れている.このように,A. polycarpumA. heterophyllumは大ヒマラヤ地域の東部と西部でそれぞれ地理的な分化を遂げた,姉妹種であると考えられる.
著者関連情報
© 2002 公益財団法人平岡環境科学研究所

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
次の記事
feedback
Top