抄録
同翅亜目頚吻群Auchenorrynchaに属する昆虫類41種について,雄の貯精嚢内の精子の形態を観察した.そのうち,セミ型類Cicadomorphaに属するセミ科,アワフキムシ科およびヨコバイ科の3科において,大型の精子東が形成されていたが,他のセミ型類(コガシラアワフキ科,トゲアワフキ科,ツノゼミ科)およびハゴロモ型類Fulgoromorpha(ヒシウンカ科,ウンカ科,ハネナガウンカ科,テングスケバ科,グンバイウンカ科,マルウンカ科,アオバハゴロモ科,ハゴロモ科)ではそのような束の形成は認められなかった.セミ科とヨコバイ科では,長いひも状の物質に精子の頭部先端が付着して,長い櫛状の精子束になっていた.一方,アワフキムシ科では,棍棒状の物質の周りに精子の頭部先端が付着した形となっていた.精子が付着している物質は,いずれもトリプシン処理によって分解されたため,タンパク質から成ると推定された.精子束は精巣から輸精管を経るにつれて成長し(大きくなり),その後貯精嚢に蓄えられる.交尾のとき,雄の貯精嚢内の精子束が雌の体内にある交尾嚢内へと移される.精子はそこで束からはずれ単独の状態となり,雌の体内の別の器官(受精嚢)へと移動し,産卵時までそこで蓄えられる.交尾嚢内に残された物質は精液などとともに分解,吸収されると考えられる.このような大きな精子束の機能として,精子を束ねた状態で効率よく移精させるとともに,精子を束ねている物質(タンパク質)が雌にとって体の維持や卵成熟のための栄養源となっている可能性について考察した.