抄録
北東アジアにはチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林が広範囲に分布している.この林は極相林と考えられるが,一般には陽樹性の高いマツ属樹木が主要極相構成種となることは珍しい.チョウセンゴヨウの更新様式を知るために,中国長白山山麓のチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林において主要構成種の直径分布を明らかにし,チョウセンゴヨウの生長様式を,混交林の上部に発達する常緑針葉樹林において,エゾマツ,トウシラベと比較することによって検討した.
調査したチョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林の林分構造は主として林冠層とカエデ類からなる中・低木層の2段林である.林冠木となるのはチョウセンゴヨウのほか,モンゴリナラ,アムールシナノキ,ヤチダモである.チョウセンゴヨウは樹幹の胸高直径が90 cmに達してアムールシナノキなどよりも大きくなり,本数的にも最も多い.この林で最も優占している.チョウセンゴヨウの直径分布は,20 cmから55 cmにかけてピークが認められるものの,小径木から70 cm程度までほぼ連続して個体が分布し,更新が継続していることが伺われる.
樹高生長に伴う樹冠面積の発達を本種,エゾマツ,卜ウシラベの3種間で比較すると,いずれの樹高階でもチョウセンゴヨウの樹冠面積が最も大きい.また,最大樹冠面積も3種中最大である.このため, チョウセンゴヨウは定着に成功した個体の占める樹冠面積は相対的に大きい.このことで空間的な優占性を確保している.チョウセンゴヨウの樹冠面積が広いことは,林間を占めている個体が枯死した場合に広いギャップができることを意味する.チョウセンゴヨウは,耐陰性が比較的低く,そのため定着の機会が限られることを,自らが枯死して広いギャップを作り出すことで補っているといえる.
生長の重要な要素である樹高生長と樹齢について,チョウセンゴヨウとエゾマツ, 卜ウシラベを比較した.チョウセンゴヨウの最大樹高は30 m,最大樹齢は200年以上に達する.また,長白山北麓では樹齢450年(胸高直径90 cm)の記録がある.したがって,定着したチョウセンゴヨウの個体は長期間林内に留まる.樹高-樹齢関係をみると,チョウセンゴヨウとエゾマツは共に,定着した個体は生長を続け,最終的には林冠層に達する.そして,林冠に滞在している時間も長い.チョウセンゴヨウの方がエゾマツよりも樹高生長が早い方にそろっており,個体間のばらつきが少ない.定着に成功したものはどの個体もほぼ同様の早さで林冠に達するといえる.チョウセンゴヨウは少ない定着の機会を着実な生長と長い林冠滞在時間で補い,優占性を保っている.同様の生長様式をとるエゾマツよりも樹高生長が早いことが,さらに有利な条件となっている.いっぽう,トウシラベは樹高生長のばらつきが大きく,生長しないものは小径木のまま林内に留まってしまう.したがって,この種の場合には耐陰性の強さは必ずしも林冠木の多さにはつながらない.また,林冠に滞在している時聞は短い.
チョウセンゴヨウが継続的に更新することの条件は自らの大径木が林内に蓄積することで,それらが枯死することにより比較的大きなギャップを作り出し,そこで更新が順調に行われる.したがって,チョウセンゴヨウは大規模撹乱による広大な開放地の形成がなくとも,長期間林分が安定して大径木が蓄積することで個体群を維持することが可能である.一般のマツ属樹木とはかなり生長特性が異なっている.