熱帯農業研究
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原著論文
ベトナム・メコンデルタの塩水遡上地域における農家経営の実態
相澤 麻由Nguyen Duy CAN黒倉 寿小林 和彦
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2009 年 2 巻 2 号 p. 71-79

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抄録

メコンデルタの半分以上を占める塩水遡上地域では,1990年代から米の増産を目的とした淡水化プロジェクトが実施され,稲作環境や農業形態が大きく変化している. この塩水遡上地域での農家経営実態を明らかにするために,Soc Trang省のDai AnⅡ村,Long Phu村,Tai Van村において,計193戸の農家に聞き取り調査を実施した.水稲2期作と畜産を組み合わせた農業形態の世帯数が全体の41%と最も多く,次いで水稲2期作専作が37%,水稲2期作と畑作・果樹の組み合わせは17%だった.ただし,水稲以外の生産規模は小さく,農家はあくまで稲作主体の農業を実施していた.各作目の土地生産性を比較すると,畜産が最も高く,続いて畑作・果樹が高く,稲作は最も低かった.従って,土地の利用効率からは,稲作よりも畜産や畑作・果樹を導入した方が,高収入を期待できる.それにも関わらず,農家が稲作以外の作目の生産規模を拡大しない理由として,労働力と土地の制約が考えられる.この地域では畑作・果樹や畜産の生産に対して雇用労働を用いておらず,生産規模は家内労働力で制約される.また,畑作・果樹は水はけの良い高台で行われ,養豚は各家の裏庭で行われるが,現状ではそれぞれに適した土地が限られている.それに加えて,米の販売価格が農家間で差が小さく安定していることから,農家は他の作目よりも稲作を優先して生産規模拡大を行ったと考えられる.なお,この地域における米生産は規模拡大によって土地生産性が向上するが,このことも農家が稲作の規模拡大を選択する要因の一つになっていると思われる.

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© 2009 日本熱帯農業学会
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