熱帯農業研究
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原著論文
タンザニア中南部における葉菜の生産と消費
加藤 太
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2011 年 4 巻 2 号 p. 83-89

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抄録

タンザニアの農村部では,多様な野菜が栽培されている.1980年代に始められた経済自由化の進展に伴って,農村部でも現金の必要性が高まり,換金を目的とした果菜の栽培が各地で見られるようになっている.その一方で,経済の変化とは関係なく自給的な葉菜栽培も消滅せずに維持されている.そこで本研究では,農村部における葉菜の生産と消費の実態を明らかにすることで,葉菜栽培が続けられている背景とその要因を考察しようとした.調査地であるキロンベロ谷では,一年間に消費された副食の3割以上が葉菜を材料としたものであった.同地域の葉菜類の消費パターンには,雨季に消費量が伸び,乾季に落ち込む傾向があるものの,多様な作物を組み合わせて栽培することによってほぼ一年を通して葉菜が消費されていた.最も消費が多かった葉菜はカボチャの葉であり,次いでキャッサバの葉,ヒユの葉,クサネムの一種(Aeschynomene sp.)や野生モロヘイヤ(Corchorus sp.)などの野草,サツマイモの葉,ササゲの葉の順に利用されていた.ヒユや野草を除く葉菜に共通している特徴は,いずれも栽培にほとんど手がかからない点や,収穫される葉がイモや果実,マメなどの副産物である点などがあげられる.また,栽培に農業投入材を一切用いず,収穫物を販売する機会が少ないことなど,市場経済との接点があまりない点も葉菜栽培の特徴の一つである.こうした特徴から,同国における葉菜栽培は,経済的な変化の影響をほとんど受けずに,簡単に食料を供給する役割を担っている.これまで副産物としてみなされてきた葉菜類の栽培であるが,貴重な生業の一つであり,今後は葉を利用するキャッサバやカボチャなどを葉菜としても捉えなおす必要がある.

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© 2011 日本熱帯農業学会
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