熱帯農業研究
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原著論文
カンボジア国バッタンバン州の水田土壌の還元状態と苗立ちの関係
吉井 健一郎志和地 弘信入江 憲治豊原 秀和
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2011 年 4 巻 2 号 p. 90-98

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抄録

カンボジア国バッタンバン州ではイネの直播栽培が多く行われているが,播種後の湛水による苗立ち不良が問題となっている.本実験では苗立ち不良の原因について,苗の生育時に見られる事象と土壌の還元状態との関係について検討した.インディカイネ18品種の苗立ち率は全ての品種で水田土壌を湛水状態にした場合に大きく低下した.そして,苗立ちの悪い種子周辺にはゲル状の白色物質や黒色物質が観察された.黒色物質はエネルギー分散型蛍光X線分析による分析の結果,酸化鉄と推察された.白色物質は,水中に投じられ苗立ちした種子周辺で確認されたことから,種子からの滲出物によって生成されたものであり,白色物質自体は苗立ち阻害物質ではないことが確認された.種子滲出物を含む溶液をトゥールサムロン水田土壌に添加すると溶存酸素量が低下した.種子滲出物にはエタノールが含まれていた.エタノールを水田土壌に添加したところ,いずれの濃度でも溶存酸素量と酸化還元電位は低下し,pHは徐々に中性付近まで上昇した.また,水中のFe2+も増加した.これらのことから,水田土壌に播種されて湛水状態にある種子周辺の溶存酸素量は非常に低くなっている可能性がある.

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© 2011 日本熱帯農業学会
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