2018 年 39 巻 5 号 p. 236-240
マトリックス樹脂と補強材としての繊維を配合した繊維強化プラスチックは,軽量化材料として航空機をはじめ自動車,鉄道車両,船舶,さまざまな産業機械・機器分野で注目され,その需要は年々高まっている。
近年,これまで以上に高性能化,低コスト化が求められ,特に自動車や航空機向けでは低燃費化の要求により,より一層の軽量化が求められている。その中でも,マトリックス樹脂にフェノール樹脂を使用した短繊維強化熱硬化性樹脂成形材料(以下,短繊維強化材料)は,熱硬化性樹脂が持つ耐熱性,耐薬品性と補強繊維などによって得られる高い強度やクリープ特性などから自動車部品や電気・電子部品をはじめとして多くの産業分野で金属の代替や熱可塑性プラスチックの置き換えなどで使用されてきた。これらの材料は通常,樹脂と補強材としてのガラス繊維からなり,ガラス繊維には数mm の長さに切断されたチョップドストランドが用いられ,一般的には溶融混練機により樹脂と混練してペレット化される。しかし,混錬工程における剪断力により繊維破断が起こる。また,これらの材料は射出成形などにより,賦形される際にさらに繊維破断が起こることがある。このような中で,従来のガラス繊維で補強したガラス短繊維強化材料では軽量化と高性能化の両立が難しくなってきていると考えられる。一般的には繊維が長いほど補強効果が発現するため,高強度化の要求や大型製品には連続した強化繊維に樹脂を含浸させたプリプレグが用いられている。また近年では,カーボン繊維プリプレグコンポジット材料が航空機の構造材や自動車のボディーなどに適用されている。これら1), 2)プリプレグコンポジット材料のような
連続繊維で強化された複合材料は高強度で大型の製品が得られる反面,オートクレーブによる長時間の成形が必要になるなど加工プロセスに手間がかかる点や,平面的で剛直なプリプレグコンポジット材料から複雑な3 次元形状は作り難いなどの課題がある。
熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした長繊維強化材料は90 年代から自動車分野を中心として使用されはじめ,日本市場においても広まってきている。熱硬化性樹脂成形材料についても同様の開発が行われており,圧縮成形や射出成形が可能で材料中の繊維長が数mm から数十mm と従来の短繊維強化材料よりも長い繊維で補強された長繊維熱硬化性樹脂成形材料(以下,長繊維強化材料)の開発検討が進められている