抄録
フェノール樹脂ナノコンポジットを固形レゾールと有機ベントナイト(MMT)から作製し,その構造および物性を検討した。まず,加熱ロールを用いた溶融混練法によりMMT を固形レゾール中に微分散させるための最適条件を検討した。その結果,混練工程で最も強いせん断応力が期待され,かつ,レゾールのゲル化の心配が少ない条件として,90℃で 15 分間溶融混練して成形材料を作製した。次に,成形材料のゲル化過程での溶融粘度の経時変化を検討した。その結果,固形レゾール/ MMT からなる成形材料の溶融粘度はレゾール単独よりも若干高く,MMT 含量が 5phr の成形材料の溶融粘度が最も高かった。また,170℃に達した後,約 5 分後にゲル化反応の開始により溶融粘度の上昇が始まり,いずれも約 20 分後にゲル化した。この結果から成形時間は 20分とした。次に,MMT 単独および固形レゾール/ MMT(3 ~ 5phr)からなる成形材料を硬化させたコンポジットの構造を検討した。コンポジットの XRD 測定の結果,コンポジットは MMT の含量に関係なく,MMT 単独の結晶ピークが消失し,低角側にピークがシフトし,Bragg の式から算出した MMT 単独の層間距離が 18.4Åであったのに対し,コンポジット中の MMT の層間距離は約 41Åまで広がった。このことから,コンポジット中の MMT の層間にフェノール樹脂が入り込み,MMT の層間距離が広がったことが示唆された。また,コンポジットの TEM 観察の結果,約 1 μm の MMT の凝集が若干観察されたが,MMT 含量に関わらず MMT の層間にフェノール樹脂が入り込み,MMT がナノメーターオーダーで分散していることがわかった。さらに,コンポジットの諸物性を検討した結果,引張強度は MMT 含量が 4phr で極大値を示し,フェノール樹脂単独の硬化物と比較して約 30%向上した。この原因として,フェノール樹脂が MMT の層間に挿入することにより,界面接着面積が増え,応力集中を緩和させる効果があったためと考えられた。また,曲げ強度もフェノール樹脂単独と比較して約 10%,荷重たわみ温度も約 10℃上昇した。