光学活性アミド基を有する環状フェニレンエチニレン3 を,L- アラニン由来の3,5- ジブロモベンズアミド 1 と1,3- ジエチニルベンゼン2 との薗頭−萩原カップリングにより合成した。3 の生成はMALDI−TOF マス,1H/13C NMR およびIR スペクトルにより確認した。3 のクロロホルム溶液を室温で30 分間放置することによりゲル化し,このゲルは振動により溶液状態に戻った。このゾル−ゲル転移は可逆的であった。ゾル−ゲル転移は動的粘弾性測定により,角周波数0.18 rad/s 近辺で貯蔵弾性率が損失弾性率より大きくなることからも確認された。スピンコートにより成膜した3 の薄膜は,キラルな会合体に起因すると推測される負のコットン効果を291 nm および305 nm に示した。
枯渇の恐れがあり環境に対する負荷が大きな石油や石炭のような化石資源を用いることなく,環境問題の原因となる恐れの少ない非化石資源であるリグニン系天然材料を用いたフェノール樹脂の高性能化について研究した。まず,草本系リグニンに反応性を付与した変性(反応性)リグニンを新しく開発した。開発した変性リグニンをフェノール樹脂と複合化させ,変性草本系リグニンを含むフェノール樹脂成形材料および成形品を作製した。 作製した変性リグニンを含むフェノール樹脂成形品は,草本系(天然)リグニンを用いて作製したフェノール樹脂成形品の欠点であった耐水性が改善され,かつ耐熱性や電気絶縁性にも優れたフェノール樹脂成形品が得られることが分かった。また変性リグニンを作製するための原料であるホルムアルデヒド,アニリンおよび草本系リグニンの仕込み比を変えることにより,得られるフェノール樹脂の特性が変わることも明らかになった。
ジヒドロキシ芳香族類を原料とし,1 分子中に2 個のプロパルギルオキシ基を有する新規のモノベンゾオキサジンを合成した。これを用いた硬化物は,動的粘弾性試験において350 ℃を超えるガラス転移点(Tg)を示すとともに熱重量測定試験においても優れた耐熱分解性を示し,次世代パワーデバイスが要求する物理的耐熱性と化学的耐熱性を高次に兼備することが確認された。また,この硬化物は広い温度範囲で低熱膨張係数と高弾性率を維持した。プロパルギルオキシ基を有する新規ベンゾオキサジンの優れた特性の理由について,モデル物質を用いた反応挙動の調査や,熱分解ガスの組成を分析することで考察した。
高耐熱樹脂組成物用の新規硬化剤として,高Tg を発揮するものの溶解性が低い環状フェノール化合物C-メチルカリックス[4]レゾルシンアレーン(CRA)の分子修飾による溶解性及び流動性向上を試みた。CRA とグリシジルフェニルエーテル,アセチルクロリド,あるいはアリルブロミドとの反応により,フェノール性水酸基を部分的にエーテル化,アセチル化,あるいはアリルエーテル化することでCRA 誘導体類を合成した。その結果,アリルエーテル化の場合,得られたCRA 誘導体(CRA−50%AE)の溶解性や流動性は最も優れていることが分かった。合成したCRA−50%AE をトリフェノールメタン型エポキシ樹脂の硬化剤として使用したところ,Tg レスの硬化物が得られ,トリフェノールメタン型フェノール硬化剤と同等の流動性を発揮することが分かった。
近年,電子機器の高性能化にともない,用いられる部品・部材に対しても従来よりも高い性能が求められている。電子部品に用いられる樹脂に対しては,鉛リフロー半田に対応できる高耐熱性,高速情報通信における低損失のための低誘電特性,環境問題への対応からノンハロゲンでの難燃性,実装時の信頼性向上のための低熱膨張性,環境からの吸湿による不具合や特性変化を小さくするための低吸水性,といった種々の特性を向上させることが求められており,これらの要求に対応するために各種機能性熱硬化性樹脂の開発が進められている。本稿では,高耐熱性と低誘電特性を併せ持つ樹脂の開発動向,高耐熱性と難燃性を併せ持つ樹脂の開発動向について紹介する。