左側頭葉にはWernicke領野とその周囲皮質,弓状束の一部,側頭葉前方部など,言語に重要な領域を数多く含む.それぞれの部位の損傷により特徴的な失語型をとり,失語症に伴って独特の読み書き障害を呈する.また局所脳損傷による純粋な読み書き障害の責任病巣として,従来から左角回を中心とする神経回路が重視されてきた.しかし本邦において,左側頭葉後下部損傷に伴う漢字に特異的な失読失書が数多く報告され,欧米圏からも語彙性失読失書の部位と想定された側頭葉下部がvisual word form areaとして数々の臨床報告と機能画像解析が示されてきた.以上から漢字と仮名は処理経路が異なることが明らかとなり,日本語における読み書きの二重回路説が提唱された.