神経心理学
Online ISSN : 2189-9401
Print ISSN : 0911-1085
ISSN-L : 0911-1085
教育セミナー 芸術と神経心理学I
失音楽症からみた音楽の脳内認知過程
佐藤 正之
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 37 巻 2 号 p. 106-116

詳細
抄録

失音楽症の自験2例に対し音楽能力の検査を行い,音楽認知の脳内機構について考察した.症例1は70歳代の女性.両側側頭葉前部の梗塞により,和音弁別の障害と童謡の歌唱の際の旋律の入れ替わり(錯メロディ,paramelodia)を呈した.楽曲の和声分析の結果から,歌唱の際にヒトは先行する4小節もしくは1フレーズの和声進行をもとに,続くメロディを記憶から想起していることが示唆された.症例2は60歳代,男性.両側側頭葉の梗塞の結果,広義の聴覚性失認と表出性失音楽を生じた.音楽の受容系と表出系との離断(伝導性失音楽,conduction amusia)のために歌唱の調節が出来なくなったと思われた.過去の失音楽症例のレビューでは,音楽認知の責任病巣として右側頭葉の皮質・皮質下があげられている.今後は,脳賦活化実験の結果との照合・統合をさらに進めていく必要がある.

著者関連情報
© 2021 日本神経心理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top