神経心理学
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37 巻, 2 号
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教育講演II
  • 松本 理器, 下竹 昭寛, 山尾 幸広, 菊池 隆幸, 國枝 武治, 池田 昭夫
    2021 年 37 巻 2 号 p. 60-68
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    てんかんの発作では「皮質機能を通じて」発作症状が出現する.各種感覚・運動野の過剰興奮では大脳皮質の陽性症状が,そして大脳連合野の過剰興奮では陰性症状ないし機能変容が症候として出現する.このように発作症候は正常の皮質機能と表裏一体であり,実際,高頻度皮質電気刺激による脳機能マッピングでも,同様に陽性・陰性症状が出現する.本稿では,てんかん外科の脳機能マッピングの各種手法を紹介し,前頭・頭頂葉ネットワークの知見を紹介する.次に,システムレベルでの正常機能とてんかん病態の接点として反射てんかんを紹介し,読書てんかん症例のCognitive Neurophysiologyによる検討から反射てんかんの病態生理について考察する.

シンポジウムI 座長記
シンポジウムI コミュニケーション障害の様々
  • 廣實 真弓
    2021 年 37 巻 2 号 p. 71-80
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    認知コミュニケーション障害(Cognitive Communication Disorders;CCD)とは脳損傷による認知機能の障害と併発して起こるコミュニケーション障害のことである.後天性脳損傷によるCCDは社会生活に影響を与えることが知られている.わが国にはCCDの既存の検査法がないため,言語聴覚士(ST)は検査や訓練課題を作成する必要がある.本稿ではくも膜下出血後に談話の聴覚理解と気づきに問題を呈した症例に2週間の訓練を実施し,その結果から介入法の提案を試みた自験例を紹介した.CCD者に対する社会生活支援においてSTには重要な役割があることと,そのための今後の課題について再考した.

  • ―触覚失認,皮膚書字覚障害,なぞり読み困難に関連して―
    櫻井 靖久
    2021 年 37 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    読み書きにおけるコミュニケーション障害としてなぞり読み困難と関連する障害に焦点を当てた.両手の連合型触覚失認,両手の皮膚書字覚障害,なぞり読み不能を呈した非対称性Bálint症候群および多様式失認の患者1となぞり読み困難と視覚・触覚共同運動障害を呈した逐字読みを伴う失読失書の患者2を紹介した.患者1は左頭頂葉から後頭・側頭移行部に達する皮質下出血,患者2は角回より下の中・下後頭回の皮質下出血であり,両者とも機能的MRIで視覚呼称,触覚呼称ともに賦活される触覚関連外側後頭皮質(Amediら,Cerebral Cortex, 2002)が損傷部位に含まれていた.両手の連合型触覚失認,両手の皮膚書字覚障害,なぞり読み困難,運動覚性失読,視覚・触覚共同運動障害はまとめて触覚関連認知障害と呼ぶことができ,視覚情報と触覚情報が収束する触覚関連外側後頭皮質へのアクセスの離断かこの領域の損傷そのものによって,出現すると考えられる.

  • 丹治 和世
    2021 年 37 巻 2 号 p. 88-97
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如多動性障害,学習障害などの発達障害でみられるコミュニケーションの問題は,発達障害自体の多様性を反映して,様々な形で現れる.高次脳機能障害とは対照的に,成人発達障害では神経画像上明らかな病巣が見られることはほとんどないが,コミュニケーションの問題を理解するためには神経心理学的なアプローチが有用である.本稿では主にASDの発症機序について,社会的認知の問題に重点をおく説明と,その他の認知機能の問題による説明の大きく2種類の学説について概説し,自験例のASD症例でみられるコミュニケーション障害とその神経心理学的特徴との関連を考察する.

  • 船山 道隆
    2021 年 37 巻 2 号 p. 98-105
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    前頭葉損傷によるコミュニケーション障害の背景には,非流暢性失語,作話,遂行機能障害,脱抑制,社会的認知の障害などさまざまな要因が挙げられる.本論では「言っていることとやっていることが違う」といった,前頭葉損傷にて時に認められる言葉と行動の乖離という症候に焦点を当てた.家族が同伴した脳卒中後の高次脳機能障害の61例の患者を対象とし,各種認知機能を含む要因を検討したところ,言葉と行動の乖離は脱抑制と関連することが明らかになった.病巣としては右前頭葉腹内側部の損傷がこの症状に関連する可能性が考えられた.さらにこの言葉と行動の乖離は介護負担度に大きく影響する結果となった.

教育セミナー 芸術と神経心理学I
  • 佐藤 正之
    2021 年 37 巻 2 号 p. 106-116
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    失音楽症の自験2例に対し音楽能力の検査を行い,音楽認知の脳内機構について考察した.症例1は70歳代の女性.両側側頭葉前部の梗塞により,和音弁別の障害と童謡の歌唱の際の旋律の入れ替わり(錯メロディ,paramelodia)を呈した.楽曲の和声分析の結果から,歌唱の際にヒトは先行する4小節もしくは1フレーズの和声進行をもとに,続くメロディを記憶から想起していることが示唆された.症例2は60歳代,男性.両側側頭葉の梗塞の結果,広義の聴覚性失認と表出性失音楽を生じた.音楽の受容系と表出系との離断(伝導性失音楽,conduction amusia)のために歌唱の調節が出来なくなったと思われた.過去の失音楽症例のレビューでは,音楽認知の責任病巣として右側頭葉の皮質・皮質下があげられている.今後は,脳賦活化実験の結果との照合・統合をさらに進めていく必要がある.

教育セミナー 芸術と神経心理学II
  • 平山 和美
    2021 年 37 巻 2 号 p. 117-127
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    神経心理学的症状によって,視覚芸術に美的な効果を与えている種々の側面を,知覚したり認識したりすることが困難になる.たとえば,視覚型Alzheimer病では主観的輪郭が知覚できないために,レリーフ芸術の鑑賞ができなくなる.また,肌理(テクスチャー)の違いで作られる形が認識できないために,点描画が鑑賞できなくなる.頭頂間溝後部の損傷では実際の面の奥行方向も,テクスチャーの勾配による奥行方向の感覚もそこなわれる.そのため,石庭の砂利の鑑賞が難しくなる.本稿で紹介した種々の出来事は,視覚芸術が我々の脳の働きを利用する様々な工夫により成立していることを教えてくれる.

教育セミナー 芸術と神経心理学III
  • 村井 俊哉
    2021 年 37 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    ジャーナル フリー

    神経心理学と美の関係は,神経美学などの造語も登場し,一部の研究者が関心を寄せている.こうした研究領域の発展を刺激するため,そもそも「美」とは何か,ということを考えた上で,「美の神経心理学」という概念を提案してみたい.「美」という言葉から私たちが無意識に連想する,「芸術」,「感性」,「創造性」という3つの概念を取り払った時,「美」にはたとえば,生活美や自然美も含まれることに気づかされる.「美」をこのような広義の概念としてとらえた場合,神経心理学にはどのような課題が見えてくるのかを考えてみたい.

原著
  • 山本 潤, 前田 眞治, 近藤 智, 津嶋 かれん
    2021 年 37 巻 2 号 p. 134-142
    発行日: 2021/06/25
    公開日: 2021/07/17
    [早期公開] 公開日: 2021/06/04
    ジャーナル フリー

    前開き型衣服の左袖通しから開始した場合のみ困難を示す着衣障害を経験し,その特徴を検討した.症例は77歳の右利き男性で,右前頭葉および頭頂葉の脳腫瘍で,着衣障害の他に左USN,半側身体無視等を認めた.着衣関連の評価から,衣服形態や操作空間,視覚情報の有無による影響を受けないものであった.一方で,右側袖通しから開始した場合や後ろ身ごろをまとった状態から開始した場合は着衣可能であった.前者は,右側着衣が完了し左側の空間や身体に注意を向けられるようになり,着衣動作は完遂できたと解釈した.後者は,着衣開始時には,既に左肩がまとわれていた状態のため,着衣障害が出現しなかったのではないかと推察した.

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