神経心理学
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原著
語の意味記憶が解体された左側頭葉前部脳膿瘍の1例
坂井 麻里子鈴木 則夫西川 隆
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2022 年 38 巻 2 号 p. 144-154

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抄録

左側頭葉前部の脳膿瘍の患者にみられた軽度の言語性意味記憶障害に対し,障害の質的検討を行った.本例の理解障害の特徴は,語の派生的意味の理解障害と語の範疇的使用の障害であった.また,語の理解が困難な場合,語の一部の意味や,その語を含む慣用表現の音韻的脈絡を手掛かりとして意味を探索する代償的方略もみられた.Pattersonら(2007)のDistributed-plus-hub仮説を援用すれば,これらの所見は,損傷が及ばない脳領域のtrans-modal pathwayにより各様式の表象間の局部的連結に基づく具体的な意味記憶は喚起されるが,semantic hubである側頭葉前部の損傷によって,より広範な表象の統合を要する抽象的な語の意味記憶が解体されたものと解釈できる.

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© 2022 日本神経心理学会
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