神経心理学
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38 巻, 2 号
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シンポジウムI 座長記
シンポジウムI 神経病理と神経心理
  • 高尾 昌樹
    2022 年 38 巻 2 号 p. 80-85
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    神経心理学に関係される皆様にとって,知っておきたい(知っておいて損のない)神経病理の基礎的知識に関してまとめた.とくに接する機会の多い疾患として,脳血管疾患,認知症を来す変性疾患,頭部外傷がある.ここでは上記疾患に絞って記載し,脳血管疾患の肉眼所見,アルツハイマー病,レビー小体型認知症の病理診断の概略,前頭側頭葉変性症の代表的疾患の病理所見,頭部外傷の基本的理解によって,実際に患者を目の前にしたときに,脳の中で生じていることのイメージを持つことで,日々の臨床に貢献できることを目指す.

  • 川勝 忍, 小林 良太, 森岡 大智, 大谷 浩一
    2022 年 38 巻 2 号 p. 86-95
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    意味性認知症は,語義失語を中核症状とする特徴的な神経変性疾患で,背景病理は単一ではないがtrans-activation responsive RNA-binding protein of 43 kDa(TDP-43)の蓄積を特徴とするTDP proteinopathyが大部分を占め,そのサブタイプであるタイプC病理が70~80%とされている.少数例では,Pick病,Alzheimer病,あるいはFTLD-TDPタイプB病理で運動ニューロン疾患を伴うものが報告されている.ここでは,TDPタイプC病理による意味性認知症の典型例について提示し,主病変は側頭葉前部や底面で高度の神経細胞脱落とアストログリオーシスであり画像診断の所見とよく一致すること,一方,TDPタイプCの特徴である長い神経変性突起は,側頭葉だけでなく前頭葉,頭頂葉を含めた大脳皮質の広汎の部位に出現していることを示した.

  • 渡辺 亮平, 新井 哲明
    2022 年 38 巻 2 号 p. 96-108
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    Ataxin-2(ATXN2)はTDP-43蛋白症の疾患修飾因子として近年注目されているが,そのヒト脳組織での特徴は多くが未解明である.我々は,健常例とTDP-43の蓄積を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP)例の脳標本を用いて,ATXN2の神経細胞における詳細な局在様式および発現量について検討した.ATXN2は神経細胞質で主にリボソームに局在しており,翻訳過程における機能が示唆された.患者脳ではATXN2の発現量が健常例よりも有意に低下しており,さらにATXN2はリン酸化TDP-43陽性封入体と共局在した.本結果から,ATXN2がFTLD-TDPの病理過程に関与する可能性が示唆された.

  • 横田 修, 三木 知子, 原口 俊, 池田 智香子, 石津 秀樹, 寺田 整司, 山田 了士
    2022 年 38 巻 2 号 p. 109-119
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    嗜銀顆粒病(AGD),神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT),進行性核上性麻痺(PSP)等のタウオパチーと遅発性精神病性障害との関係を示唆する知見が報告されている.AGDは遅発性精神病性障害患者で高頻度な可能性があり,高齢発症の双極性障害,脳卒中後うつ病,低い社会経済水準との関係も指摘される.SD-NFTでは側坐核に高度のタウ蓄積が起こり,認知機能障害を伴う妄想と関係する可能性がある.側坐核のタウ蓄積はアルツハイマー病患者の妄想との関係も指摘される.PSPの4.8%は発症3年以内に妄想を呈するとの報告がある.遅発性精神病性障害の病態理解は分子病理を反映するサロゲートマーカーの開発により加速すると考えられる.

シンポジウムII 座長記
シンポジウムII 発達障害へのリハビリテーション
  • 岩永 竜一郎
    2022 年 38 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)は,社会コミュニケーションの障害と限局的で反復的な興味関心,行動が顕著に見られる神経発達症である.ASD児に対してのリハビリテーションでは,子どもの特性に応じて,行動アプローチ,発達アプローチ,教育アプローチ,社会関係アプローチ,心理的アプローチなどが提供されている.これらの中で,日本の臨床現場で適用されている介入方法について紹介する.ASD児に対する介入効果の研究がなされ,エビデンスがある介入が挙げられている.近年,パフォーマンスを指標とした手法だけではなく,神経心理学的手法を用いて介入効果を示した報告が出されている.

  • 熊﨑 博一
    2022 年 38 巻 2 号 p. 130-136
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(ASD)のロボットへの親和性を考慮して,世界各地でヒューマノイドロボットを用いた支援に向けた研究が開始されてきている.ASD者へのロボットを用いた支援においてASD者の好みを考慮することは重要である.同じロボットを使う場合でも,文脈や役割によって服装や髪型を変更すること,声,文章の長さ,話すスピードなどを変えることも重要である.年齢,性別,IQなど,ユーザーの多くの要因がASD者のロボットに対する親和性に影響を与える可能性がある.既に自己開示の促進,療育,就職面接支援などの支援に向けた研究がおこなわれている.今後,ASD者に効果的な支援を目指すうえで本分野のさらなる発展が期待される.

  • 山縣 文
    2022 年 38 巻 2 号 p. 137-143
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    ジャーナル フリー

    精神疾患への新しい治療的介入法としてニューロフィードバック(NF)が注目されている.患者に自身の脳活動状態をリアルタイムに呈示し,本人がそれを見ながら脳活動状態を自発的に制御できるようにする訓練法である.脳活動の変化方向(増加または減少)が,治療者の求める方向か否かを示すことでオペラント条件付けが行われ,患者内部での学習が強化される.近年,うつ病や発達障害を対象に磁気共鳴画像装置(MRI)を用いたNFの臨床効果を示す報告がみられるが,侵襲が大きく利用施設が限られ,医療コストも高いため,その成果を実臨床で利用するにはまだ大きな壁がある.近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は,近赤外線を用いて脳神経活動の変化を測定する方法論である.小型で騒音もなく,痛みや被爆もない低侵襲であるため,高齢者や小児を対象としたNFとしての有用性が期待される.

    ADHDへの治療法として,薬物療法やSSTなどが一般的であるが,その効果は限定的である.そのため国内外で発達障害を対象にNF研究が盛んに行われており,ADHDへの新規治療法として注目されている.本稿では現在までのADHDにおけるNF研究について概説をし,現在進行中である成人のADHDを対象としたNIRSによるNF研究の結果について触れたいと思う.

原著
  • 坂井 麻里子, 鈴木 則夫, 西川 隆
    2022 年 38 巻 2 号 p. 144-154
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    [早期公開] 公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    左側頭葉前部の脳膿瘍の患者にみられた軽度の言語性意味記憶障害に対し,障害の質的検討を行った.本例の理解障害の特徴は,語の派生的意味の理解障害と語の範疇的使用の障害であった.また,語の理解が困難な場合,語の一部の意味や,その語を含む慣用表現の音韻的脈絡を手掛かりとして意味を探索する代償的方略もみられた.Pattersonら(2007)のDistributed-plus-hub仮説を援用すれば,これらの所見は,損傷が及ばない脳領域のtrans-modal pathwayにより各様式の表象間の局部的連結に基づく具体的な意味記憶は喚起されるが,semantic hubである側頭葉前部の損傷によって,より広範な表象の統合を要する抽象的な語の意味記憶が解体されたものと解釈できる.

  • 荒川 友美, 向野 隆彦, 山田 絵美, 上原 平, 福井 恵子, 山﨑 亮, 吉良 潤一, 内田 信也
    2022 年 38 巻 2 号 p. 155-165
    発行日: 2022/06/25
    公開日: 2022/07/12
    [早期公開] 公開日: 2022/06/07
    ジャーナル フリー

    側頭葉てんかん(temporal lobe epilepsy:TLE)患者の表情認知について検討を行った.TLE患者12名(TLE群)と,健常者32名(健常群)を対象に,喜び,怒り,悲しみ,驚きのモーフィング動画を使用し表情識別閾値を算出する表情識別閾値課題と,最大表情静止画像を使用し感情弁別の正答率を求める静止画像表情認知課題を行った.TLE群は健常群に比し驚きと怒りの表情識別閾値の上昇を示した.静止画像表情認知は,両群全問正答であった.TLE患者は,最大表情静止画像の表情認知は健常群と同程度に可能だが,モーフィング動画を用いた表情識別閾値測定では表情認知の低下を示すことが明らかとなった.

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