主催: 日本薬理学会次世代の会
会議名: 次世代薬理学セミナー 2024 in 東京
回次: 2
開催地: 東京
開催日: 2024/10/12
肺から左心房に血液を送る血管である肺静脈は、心筋組織を有しており(肺静脈心筋)、肺静脈心筋の異所性興奮が心房に伝播することで心房細動が発症することが明らかになっている。肺静脈は心房細動の新たな治療ターゲットとして注目を集めているが、既存の薬物には肺静脈心筋の異所性興奮の抑制を意図したものは存在しない。我々は、肺静脈心筋自発活動の機序を解明し、肺静脈選択的な治療薬の開発に繋げたいと考え研究を行っている。我々はモルモット肺静脈心筋に微小電極法を適用し、電気的自発活動を記録した。肺静脈心筋の活動電位は左心房筋と比較して静止膜電位が浅く、これは内向き整流性K+電流密度が小さいことに起因することが判明した。すなわち肺静脈心筋は再分極力が弱く、脱分極およびそれに続く自発活動の発生を許容しやすい性質を有すると考えられた。また我々は、肺静脈心筋の自発活動の発生に一部Na+チャネルが寄与していることを見出した。Na+電流は、心筋の急速な脱分極時に一過性に流れる大電流成分であるpeak INaと、持続的に流れる小電流成分(ここではlate INaと呼ぶ)に大別される。自発活動をしている肺静脈心筋組織標本に微小電極法を適用し検討したところ、peak INaを遮断する薬物は活動電位の立ち上がりを抑制して興奮伝導を抑制するのに対し、late INaを選択的に遮断する薬物は自発活動の緩徐脱分極相の傾き(slope)を減少させ、自発活動の発火頻度を低下させることが明らかとなった。単離肺静脈心筋細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察し細胞内イオン動態を測定した結果、late INaを増大させるATX-Ⅱは、緩徐脱分極相の傾きを増大させる以外にも、細胞内Na+濃度を上昇させ、Na+/Ca2+交換機構のreverse modeを介して細胞内Ca2+濃度を上昇させることが明らかとなった。さらに、ATX-ⅡはCa2+ sparkやCa2+ waveなどのCa2+ オシレーションを誘発することで種々のCa2+依存的な酵素群を活性化し、電気的自発活動を誘発しうることが示唆された。既存の抗不整脈薬を含め、心臓本体の機能を抑制してしまう薬物は、臨床で使用する場合に大きな問題となるが、選択的なlate INa遮断薬やNa+/Ca2+交換機構阻害薬は、正常な心臓の機能には影響を与えることなく、肺静脈で発生する電気的興奮を抑制しうることが明らかになった。このように肺静脈自動能に関与する分子や病態との関連を明らかにすることで、肺静脈選択的な治療薬の開発に繋がると期待される。