次世代薬理学セミナー要旨集
Online ISSN : 2436-7567
2024 東京
セッションID: 2024.2_AG4
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脳血管に着目した外傷性脳損傷に対する新規治療薬の創薬研究
*道永 昌太郎
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抄録

外傷性脳損傷(TBI)は事故や転倒などにより頭部を強打することで脳が損傷した状態であり、一命をとりとめた場合でも持続的かつ不可逆的な後遺症によりQOLの著しい低下を招く。日本の年間患者数は約30万人と推定されており、迅速な対応が望まれているが、有効な治療薬は確立されておらず、新規治療薬の開発が急務である。TBIにより脳血管が傷害を受けることによって血液脳関門(BBB)が破綻し、脳内への血管内容物の漏出や免疫細胞の浸潤による脳浮腫や神経炎症が惹起されることで死亡や後遺症の一因となる。したがって、脳血管の傷害を軽減してBBBの破綻を抑制することはTBIに対する有効な治療戦略であると想定される。本研究では、流体衝撃傷害を与えることによりTBIモデルマウスを作製し、脳血管に対して傷害的あるいは保護的に作用することが見いだされた種々の生理活性物質に着目することでTBIに対する新規治療薬の創出を目指す。

TBIモデルマウスの脳組織ではBBBの破綻を促進させることが示唆されているマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)およびエンドセリン(ET)の発現量が増加しており、これらの発現増加はBBBの破綻が進行する時間経過と一致していた。MMPinhibitor、抗VEGF抗体、ET受容体拮抗薬を投与したTBIモデルマウスではBBBの破綻が抑制されていた。TBIモデルマウスの脳組織ではBBBの破綻を抑制することが示唆されているアンジオポエチン(ANG)およびソニックヘッジホッグ(SHH)の発現量も増加しており、これらの発現増加はBBBの破綻が修復される時間経過と一致していた。ANGおよびSHHを投与したTBIモデルマウスではBBBの破綻が抑制されていた。さらに、SHHの作用発現の中核を担う膜タンパク質スムーズンドの活性化薬を投与した場合でもBBBの破綻が抑制されていた。本研究結果より、MMP、VEGF、ETの作用を阻害する薬物およびANG、SHHの作用を促進する薬物は脳血管を保護することによりBBBの破綻を抑制し、TBIに対する新規治療薬となり得ることが想定される。

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© 2024 本論文著者
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