抄録
本稿は唐代における陶淵明受容研究の一環として、中唐の白居易詩に見える「悠然」の語について検討したものである。
この「悠然」の語は、陶淵明の「飲酒二十首」その五の「悠然見南山」の句に見えるものである。この「悠然」には様々な問題がありこれまで多くの研究がなされた。筆者はかつてそれらの論考を整理し、さらに「悠然」について検討を加え、この「悠然」はある種の達観を表現する言葉であると結論を出したことがある。
この「悠然」の語が、陶淵明の影響を受けた中唐の白居易詩において如何に詠まれているのか検討することには二つの意義がある。第一に、陶淵明の「悠然」の語の解釈に対する一つの証左となる。第二に、白居
易における陶淵明の影響・受容について具体的な研究となり得ることである。
白居易詩には計七例の「悠然」が認められ、本稿はそれを一つずつ取り上げ分析した。その結果、白居易の「悠然」の用例の中二例には陶淵明の用法と同じくある種の達観を表現しているものが認められた。さらに「悠然」を用いた詩には、白居易独自の詩の世界が表現されていることについても論じた。