1984 年 33 巻 11 号 p. 33-46
子規、漱石、二人の交渉を見、比較するに風景を媒介にしてはどうか、そしてその間に自由民権思想との交渉あればそれも見たいと思った。漱石の「英国詩人の天地山川に対する観念」は十八世紀末から十九世紀初めに英国に現われた自然主義-山川の間に一生を送る-詩人の自然観を紹介したもので、資本主義に反対して山川を選んだゴールドスミス、世に容れられずして山川に逃れたクーパー、貧亡な百姓の子で小動物や植物を愛したバーンズ、自然と自己との間に一つの精神の貫流することを認めたウォーヅウォースが主なるものだ。ここへ日本の近代文学者たちをあてはめてはどうか。小説「月の都」などに見せた花野への耽美の変遷を追って子規の風景観を考え、ピトロクリ紀行に風景への態度の原型を見せた漱石の「草枕」を読んで考えてみた。