1993 年 42 巻 8 号 p. 27-35
今日、子どもをとりまくことばの状況は、生きてはたらく力としてではなく、コミュニケーションを拒否し、判断を中止して、自己の内面を隠蔽する手段としてあるように見受けられる。子どもの閉ざされたことばをひらくには、ことばに批評の力を回復しなければならない。文学の読みにおいては、読者のうちに虚構世界を成立させ、自己内対話や他者との対話を喚起することで批評のことばをひきだすことが肝要であると考える。『セメント樽の中の手紙』の実践では、子どもの素朴な疑問に出発し、それにかかわらせ、テクストの<盲点>を発見していくことを通して、子どもなりの批評のことばをひきだすことを試みた。