抄録
現在の小学校用国語教科書のすべてには「ごんぎつね」(新美南吉作)が掲載されている。つまり、「ごんぎつね」は期せずして国民文学となっているのだ。ということは、その授業を通じて形成される認識や感性が日本人としてのアイデンティティを作り出している、というのは少々大げさだが、少なくともこの作品が教材として広範な支持を得ていることは間違いない。それを仮に今、『「ごんぎつね」現象』と命名してみる。そのうえで、こうした現象を成り立たせている様々な要因について考えてみたい。そこでは、戦後の児童文学界における新美南吉評価の変遷や、文学教育運動の動向、さらには検定教科書というメディアの問題等が検討されることになる。それらを通して、学校、文学、教科書等が、どのように関わり合っているのかについて考えてみたいと思う。