1997 年 46 巻 11 号 p. 43-54
現在、笙野頼子は果敢な文学的実験を試行する最も代表的な作家である。彼女の「居場所もなかった」、「なにもしてない」の二作品を中心に、空間意識の領域で抑圧される身体の問題を採り上げ、そこに介在する国境/境界の幻視性について考える。言うまでもなくここに措定される国境/境界はイマジナティヴな規範であると同時に、<現実>を産出して認識主体の行動・行為を規定する機能であるが、ノマディズムNomadismはこの落差を戦う意志のスタイル(文体・枠組み)である。その表現形態の横断性・混血性の<意味>を、このノマディズムから読解した。