1999 年 48 巻 10 号 p. 9-16
江戸という都市空間が生じたことで、そこに住む人々の感覚がどのように研ぎ澄まされていったかについて、文学表現の問題として考えてみた。鳥獣の鳴き声や風、雨などの自然音、さらに鐘の音といった、どちらかというと<雅>的なものに当代的な意匠が凝らされた音声と、人の声(特に物売りの声)や物質の音など<俗>な要素(特に商業との関係が深い)がより鮮明な音声とが併存・融合しつつ、都市という回路を経て一定の秩序が与えられたところに、江戸詩歌の表現した音声の特質があるのである。