日本文学
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秋成『金砂』の古代像 : "水運の難波"への郷愁と喪失感
山下 久夫
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1999 年 48 巻 6 号 p. 10-18

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抄録

上田秋成の万葉評訳書『金砂』を分析すると、彼の描いた古代像が、飛鳥朝や平城京ではなく水運盛んな難波を核としていることがわかる。しかし、単に理想化していたわけではない。彼は、"水運の難波"への限りない郷愁とともに、それが近世の新田開発や延暦の掘削工事などで今では失われてしまった、という喪失感を抱いていた。郷愁と喪失感が一体となった語り方で提示されるところに、彼の古代像の特質がある。つまり、古代の景観を奪っていく開発や掘削工事への違和感を秘めた古代像だということである。ここから、古代への参与が批評性をもつ可能性もみえてくるのではないか。

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© 1999 日本文学協会
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