日本文学
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「話す・聞く」という「文学教育」(<特集>他者との出会い-文学教育の根拠-)
森 美智代
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2002 年 51 巻 8 号 p. 41-50

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抄録

文学教育における他者は、作品世界に入りこむだけでは出会えない。しかし、須貝千里(一九九九)は、「わたしのなかの他者」を問題化していくことで、作品世界の外側を見いだそうとしているように思われる。ここでは、須貝の他者論を参考に、具体的な場面を想定し、そこに存在している「人」に着目する。ただ、学びを生成する契機は、文学作品が結びつけた関係性なのだろうか、それとも「人」と「人」との関係性なのだろうか。文学作品以外のところにある結びつきをあらわにしてしまう「話す・聞く」活動によって実現する教育を、ここでは「文学教育」と表現する。そして、そのような「文学教育」こそ、「他者」の出会いを実現するのだと考える。本論では「文学教育」の実践例として、強制収容所における関係者の告白を記録した映画『ショアー』における試みを取り上げる。目の前にいる「人」の存在こそが、「他者」として自分に迫ってくることがもたらす学びの生成を描き出したい。そして「話す・聞く」という「文学教育」を、これからの文学教育の可能性として展望する。

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© 2002 日本文学協会
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