2012 年 61 巻 10 号 p. 67-76
近世漢詩の世界では、十八世紀後半以降、古文辞派による擬古主義的な詩観が退潮し、反擬古的詩観(性霊論)が力を持つようになる。この性霊論の浸透以降、詩壇には、多様な詩風が開花する。本稿では、この時期の漢詩の潮流を、非写実的、写実的の二派に分け、その近代への展開を追う。また、戦後の漢詩研究では、近世後期の様々な詩のあり方のうち、今日的文学観を投影しやすい詩が、すなわち、叙景・抒情詩的性格の作品が、より高く評価される傾向にあった。本稿では、こうした理解の偏りについても指摘する。