2012 年 61 巻 5 号 p. 2-12
万葉集には、五十数例の「いはふ」という語が見られる。本特集の呼びかけ文にあるように、現今、万葉集のテキストも電子化され、検索機能を用いれば瞬時にその用例を並べることもできる。そのことによって、「いはふ」には「いむ」や「まつる」といった言葉との親和性があることが浮かび上がる。だが、それのみでは一つの歌になぜ「いむ」でも「まつる」でもなく「いはふ」が用いられているのか、という問題まではなかなか論じることはできない。本稿では折口信夫の鎮魂論における「いはひ」という概念に注目することによって、万葉集に見られる「いはふ」という語の表現性について考えてみたい。