日本文学
Online ISSN : 2424-1202
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特集・環境としての自然・風土
野生の論理/治病の論理
―― 〈瘧〉治療の一呪符から ――
北條 勝貴
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2013 年 62 巻 5 号 p. 39-54

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抄録

平城京二条大路側溝から出土した治瘧の呪符木簡は、定説的には唐・孫思?撰の医書『千金翼方』に基づき、列島固有の文脈も加味して作成されたと考えられている。しかし、同種の呪言は八世紀に至るまでの複数の中医書に散見し、『千金翼方』より上記の木簡に近い表現を持つものもある。その淵源を遡ってみると、前漢・王充撰『論衡』に引かれる『山海経』にまで辿り着く。鬼門を守る神が疫鬼を虎に喰わせるという辟邪の文章は、やがて儺の呪言として展開してゆくが、その過程で、山林修行で培われた医薬・呪術の知識・方法、洪水と疫病の流行による世界の破滅/更新を説く神呪経の言説を含み込んでゆくことになる。そうして成立した短い呪言の一語一語には、その直接意味するところ以上に、豊かで複雑な自然環境/人間の関わりをうかがうことができるのである。

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© 2013 日本文学協会
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