2014 年 63 巻 1 号 p. 73-86
平和教材として高校国語教科書に載せられたこともある梅崎春生『桜島』は、教科書に採録されるに際して大きく省略が施される。その省略の仕方によってテクストのイメージは大きく変容する。本稿では原作『桜島』を分析しながら、教科書が作り出すイメージとは違う『桜島』像を提出すると同時に、省略のある教科書にも自身を組み替えることを可能とする切片があることを見た。また『桜島』というテクストを、正義=反軍隊/悪=軍隊主義という単純な二項対立、死の危機から敗戦による日常への生還という単純な〈物語〉としては読めないものであることを指摘した。