2018 年 67 巻 11 号 p. 47-57
戦後日本の近代化言説は、「個人の確立」を課題とした。だが、「個人」という概念は、政治的解放や人権尊重に繋がるばかりではなく、市場経済における自己責任論にも通じていく。本稿では、九州で活動した詩人、森崎和江の思想を概観し、「個人」という人間像の限界について考察する。植民地期の朝鮮で生まれた森崎和江は、個体の存立を許さない日本的な共同体主義に対して強く反発したが、一方で、生まれて死ぬ人間が、単独の個体としては存在できないという事実のなかに、個人主義思想の限界を見出した。