日本文学
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67 巻, 11 号
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特集・「近代化」言説の光と影のあわい
  • 綾目 広治
    2018 年 67 巻 11 号 p. 2-11
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    これまで〈近代化〉をめぐる言説では、西欧における〈近代化〉を理念型にして、日本の〈近代化〉の遅れや不徹底を批判的に見ようとする論が語られてきた。日本社会に関しては中途半端な近代社会だとされ、日本人の自我も独立自存の自我ではないとされてきた。しかし、どんな近代社会でも遅れた形態を内に含んでいること、また独立自存の自我というのもあり得ないことを指摘し、改めて〈近代化〉の問題を再考するべきだと論じた。

  • ――〈密室〉に仕掛けられた「罠」――
    鈴木 優作
    2018 年 67 巻 11 号 p. 12-23
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    平林初之輔の探偵小説デビュー作「予審調書」(一九二六年)は、これまで作者の掲げる「近代的探偵小説」という〈理念〉との対応関係から評価されてきたが、本論は作中で虚偽の精神鑑定の導入により「調書」が完成する点に着目し、時代的背景として予審の〈密室〉性と精神鑑定の恣意性を指摘した上で、本作を〈理念〉としての〈近代〉のみならず合法的暴力性を孕む〈近代〉という複層的な〈近代〉性を表象するテクストとして再定位した。

  • ――文芸懇話会と直木三十五・菊池寛・徳田秋声など――
    浅野 正道
    2018 年 67 巻 11 号 p. 24-34
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    満州事変あたりを境に、明治以降、様々な領域で積み重ねられてきた日本の〈近代〉が溶解をはじめ、いわゆるファシズム的風潮が顕在化していく。直木三十五と内務省警保局長松本学との会談に端を発した文芸懇話会は、その文学上の現れとみなしうる。本稿ではこの会に焦点をあて、菊池寛から徳田秋声のような純文学派に至る文学者たちが、なぜ自発的にそこに巻き込まれ、自らの〈近代〉を喪失することになったのかという点について、当時の文壇における重層的な論理に即しながら考察することにする。

  • ――主人公・三宅太郎次と剣士・牧田重勝――
    吉田 悦志
    2018 年 67 巻 11 号 p. 35-46
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    子母澤寛が一九六二(昭和三十七)年一月に発表した歴史小説「或る人の物語」の主人公・三宅太郎次と、モデル・牧田重勝の閲歴を資料を精査解読して作品の構造を明らかにした。その過程で作者のモティーフが浮かび上がる工夫をした。作品の時代背景は戊辰戦争から明治四十二、三年ごろである。使用した資料は主に牧田重勝の子孫宅などに保存されていた牧田の直筆文書「牧田家由緒書」「北海道漫遊日記」「年賦借用金証書」などである。

  • ――七〇年前後の森崎和江について――
    佐藤 泉
    2018 年 67 巻 11 号 p. 47-57
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    戦後日本の近代化言説は、「個人の確立」を課題とした。だが、「個人」という概念は、政治的解放や人権尊重に繋がるばかりではなく、市場経済における自己責任論にも通じていく。本稿では、九州で活動した詩人、森崎和江の思想を概観し、「個人」という人間像の限界について考察する。植民地期の朝鮮で生まれた森崎和江は、個体の存立を許さない日本的な共同体主義に対して強く反発したが、一方で、生まれて死ぬ人間が、単独の個体としては存在できないという事実のなかに、個人主義思想の限界を見出した。

  • ――『出ニッポン記』論――
    茶園 梨加
    2018 年 67 巻 11 号 p. 58-67
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    本論では、南米へ移住した炭鉱離職者を追って記録した上野英信『出ニッポン記』を取りあげた。作品の観点や作品生成を確認し、『出ニッポン記』というタイトルのモチーフとなった場面等について考察を行った。そのうえで、雇用者側となった炭鉱離職者や、カマラーダ(日雇労働者)をまなざしながら、国家の枠を超えた連帯の実現を作家が願っていたことや、異なる立場の者たちを描く記録文学者の表現の在り方について論じた。

  • ――中上健次「聖餐」論――
    浅野 麗
    2018 年 67 巻 11 号 p. 68-78
    発行日: 2018/11/10
    公開日: 2023/12/08
    ジャーナル フリー

    中上健次「聖餐」(一九八三年)は、被差別部落をモデルとする「路地」が「解体」される「そのとき」を刻印する小説である。「解体」とは同和対策事業の一環として地域環境を「改善」することを目的とした、「路地」近代化の総仕上げとみることができるものである。このときを「危機」とする「聖餐」は、そのときの人びとの退廃を、その土地に出現した女の性的乱交を焦点に据えて描こうとした。それは危機と目される近代化の果てをどのようにみせるものだったのか。この問いにおいてテクスト分析を行った。

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