2018 年 67 巻 8 号 p. 55-65
田中実氏が提唱し続けている所謂「田中理論」は、文学と教育をいかに相互に有機的に結び付け、活性化させるかについて示唆に富んだ理論を展開している。そのなかでも特に、〈自己教育作用〉という観点を中心として「田中理論」の応用を試みようとしたのが本稿である。
川端康成の「掌の小説」の代表作と目される「夏と冬」の細部に目を凝らし語りの特性を考察してみると、そこには死の影が感得され、物語の表層からのみでは手にできない様々な問題点が内在していることに気づかされる。読むことのこうした実践が、〈自己教育作用〉を読み手にもたらす。