2008 年 138 巻 p. 53-62
近年,日本語のフィラーを学習者に指導すべきだという主張が活発になされているが,フィラーを効果的に指導するためには,個々のフィラーの用法に関する知見が必要だろう。本稿は,「あの(ー)」・「その(ー)」という2種のフィラーの用法を明らかにした。まず,これらのフィラーはア系・ソ系指示詞が文法化したものであり,その性質を保持していると仮説を立て,アンケート調査およびコーパスの調査の結果によって,それを検証した。その結果,「その(ー)」はソ系指示詞の性質の保持により生起環境が制約されること,「あの(ー)」とア系指示詞との連続性はそれほど強固ではなく生起環境の制約がほとんどないこと,「その(ー)」の用法には,再提出型,推論型,不定型があり,それぞれ特有の効果を派生すること,不定型の「その(ー)」は「あの(ー)」に置き換えにくいこと,が明らかになった。