日本語教育
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研究論文
上級日本語学習者の語りは母語話者とどう異なるのか
―語りを肉付けする評価方略に着目して―
小口 悠紀子陳 真
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2023 年 184 巻 p. 97-111

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抄録

 良好な人間関係を築くためには,語りを構築する能力が必要不可欠である。本稿は,語りの肉付けの役割を果たす評価方略に着目し,中国語を母語とする日本語学習者と日本語母語話者の語り方の相違を調査した。その結果,(1)想定外の事態が発生した場面に「てしまう」を用いることが難しいのは教科書・指導の影響である可能性,(2)情報補足の評価表現や意見表明の評価節等,話者の評価を多様な方法で表す傾向があり,その一部に母語・母文化の影響を受けている可能性,(3)「楽しい」等の心的状態を物語の随所で表す傾向は,母語・母文化の影響ではなく,第二言語での語りに起伏を生み出そうとする学習者独自の工夫である可能性が示された。従来の談話研究においては,学習者特有の言語使用を誤用と扱うこともあったが,本稿では評価方略という客観的な指標を用いることにより,母語・母文化の語りのスタイルの影響を考慮した考察を行うことができた。

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© 2023 公益社団法人 日本語教育学会
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