2016 年 12 巻 4 号 p. 103-117
南琉球八重山黒島方言には二重有声摩擦音が観察される。本稿は、この二重有声摩擦音について以下のことを述べるものである。
(1)黒島方言には二重有声摩擦音と単子音の有声摩擦音との音韻的対立を認める
(2)基底に二重有声摩擦音をたてる必要がある
(3)二重有声摩擦音の実現には揺れがあるが、それは言語類型論的傾向に合う
二重音と単子音の有声摩擦音は、複合語の後部要素の先頭にたった場合にふるまいが異なる。具体的には、二重音のほうは無声化することがあるのに対し、単子音のほうは無声化しない。このような形態音韻的差異があるため、これらは音韻的に対立していると考えられる。また、言語内事実(動詞活用と母音同化の例外の除去)と言語類型論的傾向から、二重有声摩擦音を基底にたてるべき理由についても述べた。