本稿では,中古和文における話し手の意志をめぐる疑問文について,疑問文のタイプと文末の助動詞に注目して調査を行ない,話し手の意志をめぐる真偽疑問文には「まし」が用いられること,話し手の意志をめぐる補充疑問文には「まし」も「む」も用いられることを明らかにした。また,何を問題にするか,行為を実行することが決まっているか否かによって,話し手の意志をめぐる疑問文の各形式を整理した。「~や~まし」は「行為を実行するか否か」を,「不定語~まし」と「不定語~む」はどちらも「行為をどのように実行するか」を問題にする。また,「いかにせまし」は「~や~まし」と同様に「行為を実行するか否か」を,「いかにせむ」は「どんな行為を実行するか」を問題にする。文末に「まし」が用いられた話し手の意志をめぐる疑問文は行為を実行することが決まっていないのに対して,「む」が用いられた話し手の意志をめぐる疑問文は行為を実行することが決まっている。