本稿では、「こなた」がどのように転用されて二人称の人称詞として成立したのか、その成立過程はどのような類型として描けるのかの2点を明らかにすることで、人称詞成立過程の類型性の一端を描く。
「こなた」は元来「話し手のいる現場」という空間を表わしたが、「現場にいる人物たちを2つに分けたうちの片方の側」を表わす用法を介して人物を表わすようになる。人物を表わす用法は距離感が必要な場面での使用が重なって定着し、その後聞き手を指す用法に偏り、二人称の人称詞として成立する。この成立過程では、「人物指示化」「直示性の具備」「境遇性の獲得」の3つの過程が統合的に働いている。人物指示化は「空間に存在する人物の焦点化」、直示性の具備は「直示形式の利用」、境遇性の獲得は「特定人称用法の残存」というパターンで起こる。これらは他の人称詞の成立過程にもみられるものと考えられるため、人称詞の成立過程の一類型であるといえる。