日本語の研究
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訳官系唐音にみる近世のハ行子音
王 竣磊
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2024 年 20 巻 3 号 p. 35-52

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抄録

本稿では,『唐話纂要』をはじめとする訳官系唐音資料9種を調査し,仮名音注の様相から当時のハ行子音について考察する。中国語が有する軽唇音/喉音合口/喉音開口といった声母音類を音写するにあたって,これらの資料では,「ハ」と「フア」が棲み分けていることや,逆に混在していること,あるいは「ハ」のみが使われていることや,「ハ」と「ハア」が棲み分けていることなど,複雑な様相を呈している。これは,各文献の編纂者が自身のハ行子音の音声実現に基づいて中国語の音声を書き表していたためだと考えられる。全体的にみれば,これらの資料は,I.分離型,II.混在型,III.一貫型,IV.長短型といった4つの音写類型に分けることができ,それぞれ異なったハ行子音の音声実現を示唆している。18世紀の日本語にみられるハ行子音の音声実現はバリエーションに富んでおり,ハ行子音の脱唇音化には[ɸ~hw]や[hw~h]のような中間段階が存在していたと推測される。

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