日本語の研究
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バレト写本のタ行二重子音表記
──非促音のタ・テ・トに現れる子音字tt──
柄田 千尋
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2025 年 21 巻 1 号 p. 18-34

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抄録

1591年にポルトガル人宣教師マノエル・バレトがローマ字綴りの日本語で書写した「バレト写本」では,非促音であるべき箇所でタ行音タ・テ・トの子音が「tt」で表記されることがある(=タ行二重子音表記,【例】vomotte[面(おもて)],atto[後(あと)])。先行研究では,この表記はアクセントや促音など何らかの音声を表したものと考えられてきたが,本稿は,タ行二重子音表記は当時のラテン語およびポルトガル語の綴りの影響で生じたものであると主張する。「tt」の出現位置には語頭の“att-”の配列,あるいは語末母音直前に現れやすい傾向があり,この特徴は同時代のラテン語・ポルトガル語語彙の「tt」出現位置と合致するうえ,17-18世紀ポルトガル語正書法書の記述とも合致する。また傍証としてバレト写本内部の表記分布も踏まえ,この表記がラテン語の綴りの影響を受けた当時のポルトガル語の表記法の反映であることを明らかにした。

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