2025 年 21 巻 3 号 p. 1-17
本稿の目的は,複合助詞「をもって」の通時的変化について,様相を明らかにしつつ体系的に記述することである。近代の「をもって」は出現頻度が高く現代にない用法がみられ,現代にかけて衰退したと推測される。コーパスを用いた調査により,近代以前と比べても近代の「をもって」は特異な広がりをもち,場所を表す用法などの近代固有の用法があることが判明した。幅広い用法の整理および史的変遷の分析のため,多義的な格助詞「で」の先行研究における枠組みを援用した。結果として,「をもって」の通時的変化には異なる二つの流れが混在することを明らかにした。すなわち,近代における用法の発生・衰退と,「をもって」全体の傾向の一方向的な変化である。現代語の「で」の共時的分析に用いられた道具立てにより「をもって」の通時的変化の実態と特徴を捉え,歴史的研究に現代語研究の知見を応用する有用性を示した。