2025 年 21 巻 3 号 p. 94-111
本稿は、地の文と会話文の位置づけを探るために、話法の連続性を手掛かりに村上春樹の小説「アフターダーク」と新聞記事を分析し比較検討したものである。「アフターダーク」は地の文から独立した「引用符付き会話文」が多く、地の文中には草子地的な(語り手が顔を出す)「引用符なし会話文」が頻出する。一方新聞記事に現れる会話文は、現実の会話を引用した体裁を取りつつ、文章にリアルさや証拠性・根拠性を付与する効果を持つ。新聞には「引用符付き会話文」「引用符なし会話文」の両方が出現し、後者はより会話らしさを失い地の文に埋没しやすい傾向があるが、両者は連続的である。従って、会話文と地の文は別次元のものではなく、相対的な存在であると言える。